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東京家庭裁判所 平成7年(少イ)32号 判決

被告人 Y1(昭和50年○月○日生)

Y2(昭和34年○月○日生)

主文

被告人Y1及び同Y2をいずれも懲役7月にそれぞれ処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各30日を右各本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、Aと共謀の上、法定の除外事由がないのに、

第一  平成6年7月初めころから同年7月9日ころまでの間、B(昭和54年○月○日生、当時14歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、神奈川県鎌倉市○○×丁目××番××号a店ほか3か所において、食料品等を万引きさせるなどの目的で同女を連れ回し、

第二  前記記載の期間、C(昭和54年○月○日生、当時14歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同所において、前同様の目的で同女を連れ回し、

もって、いずれも児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって児童を自己の支配下に置いた。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人両名の各検察官調書

一  Aの検察官調書謄本

一  Dの司法警察員調書3通

一  現場確認捜査報告書(甲39号)、引当り捜査報告書3通(甲40号、41号、43号)、確認捜査報告書(甲42号)、確認報告書(甲47号)

判示第一の事実につき

一  Bの検察官調書謄本

一  新宿区長作成の身上調査照会回答書

判示第二の事実につき

一  Cの検察官調書謄本

一  豊島区長作成の身上調査照会回答書

(法令の適用)

一  罰条 判示第一、第二の各事実につき、平成7年法律第91号による改正前の刑法(以下「刑法」という。)60条、児童福祉法60条2項、34条1項9号

一  刑種の選択 いずれも懲役刑を選択

一  併合罪の加重 刑法45条前段、10条、47条本文により、犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重

一  未決勾留日数 同法21条

一  訴訟費用 被告人両名につき、刑訴法181条1項ただし書

(罪数について)

弁護人は、判示各罪は包括一罪として処断されるべきである旨主張している。しかし、児童福祉法60条2項、34条1項9号の立法趣旨等からすれば、同条所定の罪は、被害児童ごとに成立すると解され、弁護人のいうように、両名に対する罪を包括して評価することはできない。他方、本件において起訴されているのは、同一の場所において全く同じ期間、判示のような目的で両名を同時に支配下に置いたという事実であるから、右各罪は、一見すると観念的競合の関係に立つようにも考えられるが、被告人らは、右の期間中、被害児童を別々に連れ回していたのであるから、これを社会観念上1個の行為と解する余地はなく、結局のところ、両罪は、検察官の主張するとおり併合罪の関係に立つと解するのが相当である。

(量刑の理由)

本件は、被告人両名が外1名(A)と共謀の上、当時僅か14歳であった被害児童両名を、食料品等の万引きをさせるなどの目的で、1週間余りの間、○○海岸のコンビニエンスストア数店を連れ回して自己の支配下に置いたという事案である。

被告人らは、当時いずれもまともに働いておらず、収入もなかったが、本件の約1月前に、制服姿で下校途中の被害児童両名に近付いて口をきくようになり、口の上手なAにおいて、その約10日後にはBと肉体関係を持ち、間もなく同女らを慫慂して家出させ、自分たちのグループに誘い入れたものである。被告人らは、その後、両名を連れて判示○○海岸に行き、倉庫の軒下などで雨露を凌ぎながら、窃盗をさせるためコンビニエンスストアーを連れ回すに至ったが、当時収入の道のなかった被告人らが飢えを凌ぐために窃盗等の犯罪に走ることは、いわば必然の成り行きであったともいえる。他方、被害児童両名は、被告人らの甘言に乗せられて家出をしたものであるが、それまでは、学校を休むことも殆どなく真面目に通学していた極く普通の生徒であった。両名が被告人らの言に乗せられるについては、両名の側にも油断があったことは否定できないが、両名の当時の年齢及び両名を誘惑するに当たってのAの巧妙な言動等を考慮すると、この点について両名を強く責めることはできない。

本件犯行の結果は、それまで極く普通の生徒であった被害児童両名を犯罪に引き入れたということでそれ自体重大であり、これが同女らの心身に与えた悪影響は深刻である。しかも、被告人らは、その後の行為により、Bに対しては妊娠、死産、刺青、Cに対しては突発性難聴等の取り返しのつかない苦しみをも与えている。当然のことながら、被害者両名の両親は、被告人らに対し厳しい処罰感情を抱いており、被告人らが弁護人を通じて送付しようとした謝罪の手紙の受取りをも拒否している。これらの点は、本件の量刑を考える上で相当程度考慮に入れないわけにいかない。

本件犯行において、最も積極的かつ重要な役割を果たしたのは共犯者Aであり、被告人らは、同人に引きずられてずるずると犯行に加わったものということができる。しかし、Aと被告人両名との間には、明確な上下関係はなく、被告人らが同人と行動を共にしなければならない義理があったわけでもない。しかるに、被告人らは、Aとあえて行動を共にしただけでなく、被告人Y1は、むしろ積極的に窃盗をすることを提案し、他の者にその方法の説明をしたりしている。また、被告人Y2は、当時既に35歳とグループ内での最年長者であり、他の者を制止するなどの分別を発揮すべき立場にあったのに、そのような行動に出ていない。これらの点からすると、本件犯行において被告人らが積極的な役割を果たしていないからといって、その責任を軽視することはできない。

次に、被告人らのこれまでの生活歴を概観する。被告人Y1は、高等学校を1年で中途退学後、しばらく会社員として勤務したが、後から入った人より給料が少ないことを不満として平成6年4月に辞め、その直後に土工として勤務した会社もすぐに辞めてしまった。そして、その間同年1月ころ、女友達(D)の紹介でAと知り合い、同年5、6月ころ以降、同人が良からぬ人物であるというDの言を意に介さず、同人と行動を共にするようになった。同被告人は、少年時代に、ファミコンのゲームソフトの万引き、原付バイクの無免許運転と信号無視、さらには自転車の乗逃げ等で、合計3回警察に捕まったことがある。また、被告人Y2は、中学校卒業後、寿司屋の店員を経て暴力団事務所の電話番などをしていた際、ぐ犯の非行事実で初等少年院に送致され、その後、会社員、土木作業員、スナックの店員、訪問販売の営業員、パチンコ店の店員など多くの仕事を転々とし、一時結婚して2児をもうけたが、5年足らずで協議離婚した。そして、平成4年ころに現在の内妻と同棲するようになったが、翌年5月には口論をして家を飛び出し、間もなくAと知り合って行動を共にしていた。同被告人には、少年時代に、前記ぐ犯による初等少年院送致のほか、自転車の窃盗による審判不開始の前歴がある。このように、被告人両名の生活歴は芳しくなく、遵法精神や責任感は希薄である。本件は、被告人らのこのような無責任な生活態度に端を発する犯行であるといわなければならない。

以上の諸点に照らすと、本件については、被告人らに前科がないこと、犯行において最も積極的な役割を果たしたのは共犯者Aであって、被告人らはこれに引きずられたものであり、被害児童両名に対し前記のような取返しのつかない被害の直接の原因となる行為をしたのはAであること等弁護人が指摘する情状を十分考慮しても、被告人らの刑の執行を猶予するのは相当でなく、両名に対しては、この際懲役刑の実刑を科し、その猛省を促すとともに、身をもって本件犯行の償いをさせる必要があると認められる。ただ、右に指摘したことのほか、本件において起訴されているのは、一連の行為のうち平成6年7月初めころから同月9日ころまでという比較的短期間のものだけであって、被害児童両名の心身に対する前記のような取返しのつかない悪影響の直接の原因となったその後の行為は起訴の対象とされていないこと、被告人両名とも、公判審理の最終段階において、本件についての反省と謝罪の気持を表すため、自分の気持を素直に綴った書面を被害児童又はその親に送付したいとして弁護人に託したこと、犯行後は、いずれもAと別れて定職に就いていたこと、犯行当時、Y1は未だ19歳の少年であったことなどを考慮すると、その刑期については、主文記載の限度に止めるのが相当であると認められる。

よって、主文のとおり判決する(求刑、懲役10月)。

(裁判官 木谷明)

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